こんにちは。
今回は、草間さかえ先生の『幸せの条件』をご紹介します。
相変わらず、さかえ先生らしい短編がずらりと収録されています。まだ先生の作品を読んだことがない方は、『仕事おわりのランデブー』あたりがおすすめなんですが、大人な方にはこの短編もおすすめです。
作品データ
幸せの条件
草間さかえ Sakae Kusama
刊行年月:2018.02.10
出版社:リブレ(BE BOY COMICS DELUXE)
どんな作品?
2018年にリリースされた短編集。
草間先生の作品は、どの短編でも設定や雰囲気が違い、驚きを与えてくれます。この作品も、いままでとは少し違った(性癖)設定と、少しアホっぽいキャラクターのバランスが絶妙な短編集になっています。
4篇のお話。笑いあり、涙あり。登場人物も読者もさまざまな感情に悩まさせる1冊。
今回は、田舎町の雰囲気はそれほどありませんでしたが、やはり草間先生の作品は自然や日常の変化が微妙に描かれており、最後に収録されている『銀杏のはなし』で特にそれが感じられます。
多くのエンタメは、東京や当たり障りのない都会描写で描かれていますが、さかえ先生は、ご自分の園芸趣味や地方に住んでいることもあるせいか、植物や街の人の描写で田舎町や懐かしき日本を表現されることが多いです。一部の読者には、懐かしく感じることも多いのではないでしょうか。また、テクノロジーで脳の疲労がマックスな現代人には、さかえ先生の世界観が心地よく感じるかもしれません。
4つのお話は独立しているはずなのに、なぜか続いている感じがするのは、先生の独特の「雰囲気」。どの作品にもそれがあり、どれを読んでも安心し、同じ世界観で物語が展開されているため、統一感があるのも、さかえ先生の作品の魅力の一つです。
草間さかえ先生『幸せの条件』ネタバレ!?感想・レビュー
感想も交えながら、それぞれのお話(カップル)をご紹介していきますね。
ストーリー1:幸せの条件
カップリング
攻め:根岸(マイペース人間。くよくよせず、おおらかに。小さいものにやさしく。)
受け:諏訪(猫人間。スッと現れては、根岸の懐へ・・・。)
『MAGAZINE BE X BOY』2016年12月号収録。
マイペースな根岸さん。ある日、家に帰るとアパートが全焼していたところから物語がスタートします。こんなスタートの仕方も、さかえ先生らしいですよね。
そこにたまたま居合わせた諏訪という男の子。どうやら火事にあった根岸のアパートの向かいに住んでいる人らしい。たまたま根岸の隣人の猫を拾ったという諏訪に出会い、根岸は諏訪の家に数日居候することになります。
物語はほのぼのした感じで進んではいくのだけど、住んでいたと思っていた隣の部屋も実は空き部屋だったりと、謎なこともちらほらと・・・。どこかミステリアスに物語は進んでいきます。
火事の原因、諏訪とは何者なのか、また根岸のマイペースな性格など、細かな描写が読み進めていくことで面白おかしく繋がっていきます。さかえ先生のキャラは、特別頭のいいやつではないのだけど、どこか憎めない人がほとんどで、かわいげがある。根岸もやさしいまともなやつ・・・に見えるんだけど、やはりどこか天然なところがあって、それは冒頭のシーンから描写されています。
諏訪の根岸に対する観察力は明らかに鋭すぎるのだけど、それにさえも気付いておらず、夜に見る猫の夢にばかり気を取られる根岸がなんとも笑える。
短編ということもあり、このカプのお話はあっという間に終わってしまうので、じわじわと二人の距離感を楽しむ物語ではありません。この先生のお話の楽しみ方は、そこではなく、どんな突拍子もないストーリー展開でもやっぱりBLしてしまうところに面白さであり、また実際私たちの周りにいる人間模様って、意外とシンプルだったりする。そういう人間の不条理なところに面白さを感じます。
くよくよせずに、大らかに。小さいものにやさしく。
冒頭にあるセリフ。まるで根岸の性格を表していると思うこの言葉ですが、実はこれ、さかえ先生から読者へのメッセージかもしれませんね。
弱肉強食ではあるけれど、社会はやはりバランスが大切で。大きいものが活躍するには、小さいものの存在も必要であり、なければいけない存在。バランスが崩れ、歪(ひず)みができると、それが徐々に大きくなり、やがて巨大なエネルギーを生じるーーー。
常に感じている社会への不安、不満も、徐々にいろいろな形で現れている今日この頃。そんな社会的な問題へのメッセージにもとれてしまいます。
ストーリー2:カレシの習性
『MAGAZINE BE X BOY』2018年2月号収録。
根岸 x 諏訪の続編。1話から1年強経っている設定です。
物語的には、前作の火事以降、諏訪のアパートで一緒に住んでいたようですが、本格的に同棲を始めるため引っ越しをするところからところからお話がスタートします。
1話でちらほらと表現されていましたが、どうやら諏訪は以前から根岸に興味を持っており、鍵屋に勤めていることをいいことに、根岸の隣の空き部屋へ忍び込んでいたストーカーということが判明 w さらには諏訪の姉の影響で、女装癖があるようで・・・。
さかえ先生の作品で、女装癖は珍しいですよね。ただ、この女装癖も、諏訪の本能から来ているものではなく、お姉さん(家族)の影響が大きいところが窺えます。やっぱり人間模様なんですよね。そこがやっぱりさかえ先生らしい。
そしてこのお話でも、やはり根岸がとんちんかんなところに萌えるっていう笑いがあります。
突然女装をした諏訪に心を奪われるのだけど、諏訪が女装をして接した目的や、そもそも諏訪が根岸をストーカーしていたことは、本人は気付いておらず・・・w
諏訪、根岸のどちらも面白おかしなキャラに描かれてはいるのだけど、やはりアホキャラは根岸の方ですね。新たな性癖を開花させた根岸。ときどき見せる無邪気な笑顔、やはり憎めないんですよ w
さかえ先生のカプはどのカプもおもしろおかしく、二人をたまに覗いてみたくなるキャラが多いのだけど、短編や1巻完結ものが多いので、なかなかカプの続きを見ることはできません。この作品は2話収録されていたこともあり、ちょこっとだけ長くこの二人を見守れてうれしい。
さらに、表紙裏に掲載されたおまけ漫画では、諏訪のお兄さん(そら)についても描かれていて、歳の差がはげしい諏訪家の兄弟事情が描かれています。
さかえ先生の頭の中にあるキャラの背景は、短編からだけでは読者には読み取れるはずもなく、おまけ漫画やあとがきを隈なく確認して、あとはもう読者自身が妄想力全開にして各々でお話を展開させていくのが、楽しみ方です。
ストーリー3:おかしな男
カップリング
斉田:メガネ男。さかえ先生は本当にメガネ男が好きですよね。先生が描くメガネ男、読者も好きです。
橘:ピザ屋さんでバイトしてる男子高校生
『MAGAZINE BE X BOY』2013年4月号収録。
30ページ弱の、二人のDK(男子高校生)のお話。
可愛らしいな。大きな話の展開はないものの、ほのぼのとしたやさしい作品で、楽しめます。
同級生の斉田(さいた)と橘。単身赴任の父親の世話をしに母親が週末家をあけるようになり、その度にピザを頼み始めた斉田。たまたまそのピザ屋でバイトをしていた橘と知り合い、月に2回、一緒にピザを食べては、話したり、勉強を教えたり。そして橘の態度から、「この男は俺のことが好きなのか・・・おかしな奴だ。」と冷静に対応していたつもりだった斉田。
でも、そもそも定期的に橘のピザ屋を利用しているのも自分だし、勉強を教えてやろうと言い出したのも自分。あれ・・・もしかして、おかしいのは橘ではなく、自分なのでは?
斉田の目線で描かれたこのお話。シンプルで短いながらも男の子のちょっとした葛藤、かわいらしく描かれている橘、そしてありそうな家庭背景と、やはり等身大のお話。複雑な大恋愛ではなく、ほわっと描かれた恋心が読みやすい。
しかしながら、ラストに橘が斉田に惹かれた理由の一つが描かれているのだけど、これはさかえ先生からの皮肉が含まれているのかもしれない。
(本質を)自分で理解しなければ意味がない
自分で理解することで、肉となり、知識となり、自分にプラスされていく。そんな人間的なメッセージもちょっと含まれている作品です。
まだ収録されていますが、少し長くなりましたので、今回はここまで。
続きは、次回の投稿でご紹介します。
草間さかえ先生『幸せの条件』を今すぐ読む方法
草間さかえ先生『幸せの条件』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。
私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。
どちらのサイトでもすぐにサンプルを読むことができます。
コミックシーモア:クーポンが魅力。BLに関しては、修正が少し甘めなものもあります。
Renta!レンタ:レンタルやスタンプ機能などがあり。そしてBLCDや、他では扱っていない短編の電子も独占購入が可能。
コミックシーモアの月額コミック読み放題が一番お得!BLも読み放題!
まとめ
いかがでしたか。今回は、草間さかえ先生の『幸せの条件』をご紹介しました。私が2023年からBL勉強会を開始して、自分なりにいろいろな作品を読んできましたが、さかえ先生の作品は、漫画としての質も高く、またお話も細かな設定が面白いです。今回もそこらへんにいる男たちのBL話ではあるのだけど、細かな設定がさかえ先生ならではの展開で、楽しめます。もう少し収録話がありますので、次回、続きをご紹介します。
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