草間さかえ先生『幸せの条件』その2:自然の恵みの享受と継承

草間さかえ
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こんにちは。

今日は、前回ご紹介した草間さかえ先生の『幸せの条件』の続きをご紹介します。前回は3つのお話(2カップル)をご紹介しましたので、今回はその続きを。

作品データ

幸せの条件

草間さかえ

刊行年月:2018.02.10

出版社:リブレ(BE BOY COMICS DELUXE)

どんな作品?

2018年にリリースされた短編集。

草間先生の作品は、どの短編でも設定や雰囲気が違い、驚きを与えてくれます。この作品も、いままでとは少し違った(性癖)設定と、少しアホっぽいキャラクターのバランスが絶妙な短編集になっています。

4篇のお話。笑いあり、涙あり。登場人物も読者もさまざまな感情に悩まさせる1冊。

今回ご紹介する2つのお話は、特にこの1冊でも大好きで涙が出てきたものです。

切なくも、胸があたたかくなるお話。あなたの大切な作品になりますように……。

草間さかえ先生『幸せの条件』ネタバレ!?感想・レビュー

ストーリー4:されど美しき日々

カップリング

攻め:委員長
受け:鼠男

『b-boy Phoenix ② 不細工特集』(2006年9月)収録。
このお話は、以前ご紹介した単行本『夢見る星座』にも収録されています。続編が収録されるということで、1話目のこのお話も再録されています。修正もされているようなので、再読する際には手持ちの『夢見る・・・』と比べて読むのも楽しいかも。

このお話は切ないながらも面白く、クセのあるお話。

主人公は、小学生のある日突然いじめられ始めた男の子・山口。

この描写、冒頭から涙したのは私だけだと思う w

小学生の山口が、学校帰りにエノコログサ(多分。ネコジャラシともいうのかな?)を片手に鼻歌を歌っていたところから、ある日を境に急にいじめられ始めるんです。

その残酷さに涙が… さかえ先生って、残酷なシーンも結構淡々と表現することがあって、それが逆に不条理というか、惨さに胸が締め付けられます。

また、この田舎住民には!?馴染みのあるネコジャラシの一コマを入れるだけで、物語に一気に親近感が湧きます。また、自分の学生時代の思い出が一気に蘇るんです。田舎に住んでいた自分にとっては、このネコジャラシが懐かしく感じるし、学生時代って、多かれ少なかれ、いじめのようなもの、ありませんでしたか?そんな学生時代の思い出が、この数コマの描写で一気に脳裏に溢れ出します。

急に虐められるようになった山口は、変な顔といわれ、紙袋をかぶるようになりました。ちょっぴり出っ歯な山口はねずみ男と言われて揶揄われはじめます。

そんな山口に「委員長」が声をかけてくれます。委員長のおかげで、他の人からはいじめられながらも、ひとりぼっちになることはなく、小学生を終えることが出来た山口。

しかし、中学に上がる前に、委員長は急に引越ししてしまいます。

山口は、その後中学でも残念ながらいじめられ、高校は知り合いのいない隣町の学校へ通うことになります。知り合いはいないが、友達もいない。そんな高校生活を送っている山口。

さて、ここまででかなりの情報量なんですが、ページ数にすると表紙を含めて8ページしか進んでいないという恐ろしさ。切り取るコマの絵で、これだけの情報が脳裏に・・・。だから、ネコジャラシの一コマに物凄いインパクトを感じるのです。それは田舎育ちの自分だけなのか・・・。

さらに、読み進めます。

シーンは現在(高校生)に。

たまたま学校帰りに駅で小学校の同級生に見つかった山口。そしてそこには、なんと引っ越したはずの委員長も…… どうやら委員長は事故にあったらしく、昔の記憶がないのだとか……。そして、山口のことも記憶から消え去ってしまったーーー。

自分のことが忘れられたと思い、思わず涙してしまう山口。

それを見て、ふと彼の手を取る委員長。

話は(少なくても私が)想像していた方向とは違う方向に進んでいきます。さっきまでネコジャラシに涙していた自分と、お話の急展開、そしてさらにはしっかりBLになってくところもおもしろおかしくて、自分の感情がかなりジェットコースターになって楽しかったです。

そして、好きな人を独り占めしたくなる委員長の気持ち、しかし閉じた世界には幸せはないという先生からのメッセージもさりげなく語られている読み応えのある作品です。

短編ながら、コマ絵の選び方やセリフ、お話の展開など、どれも素晴らしく、2006年の作品にもかかわらず色褪せない。トレンドに流されない作品作り、日常描写の大切さなど、漫画や物語を描かれる方にも勉強になる作品だなと実感させられます。

そして、最終的に山口にメガネをかけさせるさかえ先生も、自分を最後まで曲げない w

素敵です!❤️❤️❤️

ストーリー5:あらかじめ消える世界

『bーBOY HONEY ③ 不細工特集』(2010年3月)収録

さて、衝撃的なお話の展開にぐっと引き込まれた、大好きな山口と委員長のお話の続編。やはり不細工特集に収録されているのも笑えます。

山口のいじめが始まった理由がわかった1話。子供の頃は、ちょっとした誤解や些細なことで、感情が揺さぶられる。そんな繊細だった幼少期から、現在の高校生時代にお話はシフトします。再会した二人、そしてお互い(特に委員長)の恋心が全開になって、お話はスタートします w

幸せそうな二人……なんですが、お話の焦点は、委員長が中学の3年間、引越ししていなくなったこと、そしてどんな事故にあったのか……。その理由が明らかになります。

それこそ、この単行本のタイトルでもある『幸せの条件』がしっくりくるお話です。

少し複雑な理由を知った山口。

自分の思い出、委員長の立場、そして大人の事情……。

そんな複雑な感情をどうやって処理するか。当然処理できません。だから、コミカルにお話は終わっています。

それも、さかえ先生の作品作りの手法ですね。

解決は、ここではする必要がないし、そもそもこのお話の処理は、読者それぞれが解決していくんだと思います。なので、物語のラストは、これで十分なのです。

読者は何度もこのお話を読み返しては、この二人のその後を妄想……いや、考察する。
それを繰り返しつつ、さかえ先生の作品にハマっていくのだろうな ❤️😌

ストーリー6:愛と秘密の記録

『bーBOY HONEY ⑧ コンプレックス特集』(2011年1月)

さすがにもう「ブサイク」という言葉は使われなくなりましたね w

コンプレックス特集…… コンプライアンス問題。そんな社会背景も読み取れるこのタイトル。相変わらずすっとんきょうなカップル、委員長と山口のお話です。8ページのショート。

仲良くお泊まりしてる二人。相変わらず仲良くBLしてるようですね。

朝、目を覚ますと、委員長がなにやらノートにメモをしているようで・・・。

そのリングノートには何が記されているのか。タイトルにもなっているように、「愛と秘密の何らかの記録」なのでしょうか。委員長がふと気を許した際に、山口はそのリングノートを読むことになるのですが・・・。

自分がコンプレックスに感じている部分も、実は他人にはチャーミングに見えたり、それが自分のセールスポイントになったりするものですよね。ただ、当の本人は、受け入れるまでに時間がかかるのですが。

幼少期には、人と違うこと、たとえ身体的なことでもいじめにつながってしまう残酷さがある。ただ、それは自分たちが大人になれば気にならなくなること……だと思っていたけど、大人になっても意外と身体の特徴をいじられる風習が残っていて、驚きました。

ただ、山口くんのようなちょっと前歯が大きな特徴も、ゲッ歯類が大好きだと委員長のように恋してくれる人もいるので。人の癖(へき)って多種多様ですね。愛らしいなぁ〜😌

ストーリー7:銀杏のはなし

なんとも素敵なお話でした 🥺

これを書いている今も、涙がホロリ〜 💦

短いお話だけど、この1冊の中で一番グッときたそれでもあります。

タイトルのごとく、イチョウのお話。
時代背景や植物の儚さを謳っています。

イチョウは雌雄異株(しゆういしゅ)。
雄木と雌木があります。

植木屋さんが2本のイチョウの雄木の運んでくるところから物語がスタートします。
BL・・・ですね w

木が成長するにつれ、キャラも青年になっていく。そして服装や描写から、時代背景もわかってきます。この2本の銀杏の木はキャラも違い、無邪気に笑う二人がなんともかわいらしく、そして儚いーーー。

イチョウの木は、通常数百年も生きるんです。外的要因によるストレスがあると、枯れてしまいます。そしてもしまた美しい姿に戻るとしても、100年ほど時間がかかります。

1本のイチョウが枯れ、木が伐採されてしまう。

そしてもう1本のイチョウは一人で長くがんばるのだけど、やがて春になり、いつもよりたくさん葉がつき、夏になると葉が落ち始める。今までと違う描写。

そして、結局このもう1本も枯れてしまいます。

その描写も、枯れた木は伐採されることなく、祠(ほこら)!?も手入れされることなく廃れていく・・・・。

そこに、時代背景、そして人や習性の変化が描かれているのだと思います。

悲しいお話ではあるのだけど、やはりさかえ先生の作品。
ラストは先生らしく、笑顔で終わらせてくれます。

イチョウのことを知らなくても、面白く読めるのですが、イチョウの木そのものや植物に興味のある方が読むと、また違った視点から楽しめるのではないかと思います。

自然はちょっとした環境の変化が如実に現れますね。日本のように自然豊かな環境で、目の前に広がる「美」を、如何に私たちは見ていないか、実感させられます。

また、植物や動物に囲まれた生活を送るさかえ先生の幸せは、そんな自然の恵みの享受と継承にあるのでしょう。

いわゆるファンタジーではあるのだけど、モノに魂が宿るという日本的な考えも表現されており、興味深いです。ひらひらと散るイチョウを見るたびに思い起こすこのお話。

「便利」なものや事柄を求めるここ数十年の毎日。

でも、生活は本当に便利になったのだろうか。

私たちは幸せになっているのだろうか。

目の前にある美は見えているのだろうか。

タイパ重視の毎日のはずだが、本当に大切な時間、大切な人と過ごしているだろうか。

読み手それぞれが、この本のタイトルである『幸せの条件』なるものを考えさせられるいいきっかけになる1冊です。

自分の幸せってなんだろう…。

今日も自然の美に感謝し、明日も同じ景色が見られるよう願うのみ。

そして、幸せは今この瞬間にあればいいのですが、実際には私たちの記憶の中に見出していくのかなと思います。今を一生懸命生きて、平和に感謝して、いつの日かたまにそんな何気ない日々を思い出しては幸せを見いだせればいい……。

草間さかえ先生『幸せの条件』を今すぐ読む方法

草間さかえ先生『幸せの条件』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。

私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。

どちらのサイトでもすぐにサンプルを読むことができます。

コミックシーモア:クーポンが魅力。BLに関しては、修正が少し甘めなものもあります。

Renta!レンタ:レンタルやスタンプ機能などがあり。そしてBLCDや、他では扱っていない短編の電子も独占購入が可能。

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まとめ

草間さかえ先生の作品は、多くの作品が1巻完結の短編が多く、この作品もその1冊です。が、なぜか自分にとって、この1冊がすごく深く心にささり、感情を揺さぶられた作品になりました。笑い、泣き、わくわくして、時には儚く・・・。

さらっと読める作品ではあるのだけど、何度か読み直すことで、さらに時間をかけてじっくり読むと、ちょっぴり哲学的な読み方もできるのではないでしょうか。皆さんはどう思われましたか?さかえ先生のお好きな作品を教えていただければ幸いです。

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