作品データ
Sakae Kusama
どんな作品?
カップリング
攻め:朝倉(すごく可愛い子ですが、攻めでした。)
受け:篠田(仕事の出来そうな課長なのに、私生活は謎。さらに過去に何かあったようで・・・)
あらすじ
離婚をして引っ越しをした篠田課長。
新しい家にもまだ慣れない彼だったが、会社からの帰り道にコーヒーの匂いに惹かれてか、ふと立ち寄ったタバコ屋兼古物屋。そこで朝倉と知り合う。
この男・朝倉は、どこか昔付き合っていた大学の後輩に似ている。昔の記憶が正しいなら、朝倉はきっとーーー・・・
朝倉との交流で、篠田は、何もなかった私生活、大切なものがないと思っていた自分の生活に気持ちの変化を見出していく。
草間さかえ先生『地下鉄の犬』のみどころ
作品の魅力1:篠田課長の空虚感
仕事はそこそこできる。なのに、私生活ではどうもうまくいかない。大切に思ってきた母親、恋人、そして妻。なのに皆、自分のそばからいなくなった。
心に宿った思いは小説として紙に書き続けてきた篠田だが、大切だと思っていたその原稿も別れた妻のもとにある。
自分には大切なものは何一つないのだろうか。そんな空虚感が篠田を襲います。
冒頭では、奥さんと別れて新しい環境(アパート)での生活を始めた篠田の描写からスタートします。朝倉に出会って、読み進めていくと、朝倉は篠田が昔告白された大学の後輩に似ているのです。そして、その「似ているもの」を壊さないように、当たり障りのないように接していくデリケートな篠田。
篠田は、朝倉がゲイではないかと気づくのですが、それを言わないでおこうとします。ただ、それは篠田の優しさかと思うと、それだけではありません。どうやら篠田が昔告白された大学の後輩(男性)に似ている。二人は付き合ったのだけど、いざ行為をすることになると、どうも相手に答えてあげられなかったという切ない!?過去が篠田にはあります。
ゆっくりと篠田自身の性癖も描写されていく過程が面白く、冒頭で思っていたよりもより複雑な心理描写になっています。
篠田が満たされない理由。現代病かもしれませんが、理由の一つには、心にある過去の問題を処理できていないからではないでしょうか。
描き方は、ストーリーテラーとされる草間先生の作品なので、おもしろおかしくも、淡々とお話が進みます。ただ、真剣に読むと、複雑な心理描写が見えてくるのが楽しいです。
篠田の空虚感はラストまで漂ってはいますが、朝倉と出会ってから、例えばふと星の存在に気づくなど、篠田の心にわずかな変化や余裕が生まれます。そして少しずつ篠田に感情が宿ります。
ユニークな冒頭から始まる二人の関係ですが、メガネをかけずに本能のまま、五感をフルに活用して家まで辿り着けるか実験するという篠田の描写などは、さかえ先生らしい。w
そういった子供のような「遊び」も、毎日の忙しい生活で忘れかけている「感情」を呼び起こさせるかもしれませんね。
作品の魅力2:朝倉の過去
ちょっと天然な篠田を見て「かわいい」とじだんだ踏む朝倉こそ、かわいいやつ。
見た目も、篠田いわく「女顔」でやわらかい雰囲気のところに、篠田は過去の恋人を思い出すのでしょう。
朝倉が営むタバコ屋は、古物も扱っている。亡くなった祖父のお店を受け継いだ。朝倉は15歳の時に勘当され、祖父のところに預けられた。それ以来、両親には会っていない。
その理由というのも、おそらく彼の性的指向が原因なのだけど、篠田はそれを感じとり、脆い何かを壊さないようにと、触れないようにするのですが、結局それに知ってしまった篠田は、二人の関係を壊してしまいます。
大切なものを大事にすることが難しい。そんな篠田は、そこにある「何か」に触れないようにするのだけど、それは朝倉の過去でも、朝倉の性的嗜好でもなく、実は篠田の心の変化なのだと思います。
今まで通りでなくなるのは 今日知ったあなただ
引用: 草間さかえ『地下鉄の犬』71ページ
出会ってから今まで何も自分は変わっていないという朝倉。変わるのは自分の篠田に対する気持ちを知ってしまったあなた(篠田)の方だ、という朝倉。触れた回数さえ数えている朝倉のこの言葉に、胸が痛みます。
でも、篠田にしてみれば、気づいたのは朝倉→篠田の気持ちだけではないはずなんです。
作品の魅力3:番外編
二人が無事にお互いの気持ちを確かめ合うまでのお話も大好きですが、この1冊には2つの番外編が収録されています。1つ目は、付き合って1年弱たったころのお話。そしてもう1つは、その後の半年ちょっと経った頃のお話。
本編は篠田の視点で語られていましたが、1つ目の番外編は、朝倉の視点で語られているのも興味深いです。篠田が大好きな朝倉なんだけど、たまに考えることがなかなか伝わらない。ちょっとしょんぼりしている朝倉もかわいらしくて・・・。篠田は口下手なのだけど、彼なりの愛情表現で受けて立ちます。
もう一つの番外編は、篠田の視点に戻ります。二人が温泉旅行に行くお話。
旅に行く途中、なんだかやたらと街の人に声をかけられる朝倉。もともと人付き合いがよかった朝倉ですが、自分と付き合ったせいで交流関係もなくなったのでは?と心配になる篠田。
初めて家の外でキスをしたと感動する朝倉・・・w 地酒を飲みながら他愛もない会話を楽しむ二人。そして、2泊の短い旅行のはずなのに、なんだか重い荷物を持ってきた朝倉が、荷物の中身を篠田に知られることになり・・・爆笑。
篠田への愛と、気遣いがすごいな。w
とにかく、すっかり可愛らしい二人になってました。
篠田の笑顔も増えていた。
本冒頭の描写では、目も見えずに直感だけで朝倉の店にたどり着いた篠田は、どこか地下鉄の駅に登場する犬のようだ・・・と思っていたのだけど、巻末では朝倉も飼い主を尻尾を振って出迎えるような犬のようになっておりました。
そんなコミカルながらほほえましい二人が楽しめます。
草間さかえ先生『地下鉄の犬』を今すぐ読む方法
草間さかえ先生『地下鉄の犬』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。
私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。(どちらのサイトにもサンプルがあります。)どちらのサイトもBL作品の品揃えがよく、ほとんどの作品はサンプル立ち読みができます。また、無料で読めるBL作品がたくさんあります。
コミックシーモアはクーポンが魅力。無料書籍や試し読み部分が多めです。BLに関しては、修正が少し甘めなものもあります。
Renta!は、レンタルやスタンプ機能などがあり。そしてBLCDや、他では扱っていない短編の電子も独占購入することもできます。お好きな先生の情報をチェック。
草間さかえ先生『地下鉄の犬』:ドラマCD
この作品は、1巻完結ではありますが、うれしいことにドラマCDになっています。
残念ながら私はまだ聞いていませんが、さかえ先生の作品を全部読み終わってから、ドラマCDの方もいくつか聞いてみようと思っています。
新品では入手が難しいと思いますので、ブックオフなどの中古屋さんで探すことをオススメします。
この作品は、ドラマCDでもかなり楽しめると思います。
まとめ
今回は、草間さかえ先生の2010年作品『地下鉄の犬』をご紹介しました。
さかえ先生の作品は、さらっと読んでも面白いんですが、何度も読み込んで考察することで、読者もキャラに愛着が湧いてくるのが特徴です。もちろんBLなので多少の絡みはあるんですが、ポイントはストーリー。先生ならではの絵柄、描写の仕方が魅力です。読者の年齢層によっても感じ方が違うと思います。
この作品は、植物などの自然の描写はそれほどありませんが、篠田の部署の人々、そして朝倉を知る趣味仲間の描写など、生活感もリアルに描かれていて、作品に奥行きがあります。実は漫画作りをされている方もかなり勉強できる作品です。
コメント