腰乃先生『あっちとこっち』:心のフェンスを乗り越えるリーマンと高校生

腰乃
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こんにちは。

今回は、腰乃先生の初期作品『あっちとこっち』をご紹介します。初期の作品ではありますが、今読んでも十分に楽しめる作品でした。

作品データ

あっちとこっち

腰乃 Koshino

刊行年月:2011年5月10日

出版社:リブレ(BE x BOY COMICS)

どんな作品?

腰乃先生の初期作品。雑誌『MAGAZINE BE x BOY』2009年10月号から2011年3月号までに不定期連載されたタイトル作を1冊にまとめたものです。

さらっと描かれたリーマンと高校生という歳の差設定、相変わらずのテンション高めのカプの会話、そしてさりげなく見え隠れする繊細な二人の心情のバランスがなんとも素敵で、古い作品ながらとても気に入りました。

タイトル通り、フェンスを隔てて知り合った高校生の中島くんと、向こう側の会社でお勤めするリーマンの松坂のお話。

物理的なフェンスはもちろんですが、それをうまくメタファーとして表現される二人の間に存在する心の壁(フェンス)をどうやって乗り越えていくかがみどころです。

どちらも意外と繊細なキャラで、心情描写がおもしろく、微笑ましく描かれています。

分厚い本ではないものの、1冊まるまる中島くんと松坂のお話なので、以前読んだ腰乃先生の短編ものよりもよりキャラに愛着が持てます。

お互い繊細なキャラなのだけど、それを隠そうとする二人。でもその繊細さちょこちょこバレて、ついつい思ってることを口にしてしまうのだけど、またそれを隠そうとするの繰り返しで、結局どっちも可愛らしいんです。がんばれ。

ファンタジーのように描かれてはいますが、人物像や心情は決してファンタジーではなく、しっかりとリアルに描かれているのも腰乃先生の魅力の一つです。ただ、絵柄のせいか、そうは見えませんが……。w

カップリング

攻め:中島(高校生。いい加減なようで意外としっかりしてる。)

受け:松坂(強がっているわりに、実はかなり繊細なリーマン)

あらすじ

喫煙が見つかってしまい、夏休みに学校の花壇の世話をする羽目になってしまった高校生の中島。

草むしりを始めたところ、花壇近くで拾った名刺入れは、学校の隣にある会社で働く松坂のものだった。

いつか返そうと思った矢先、すぐに松坂に出会うことになるのだが、名刺入れを返しても、毎日のようにお昼休みになると花壇の近くに来ては、フェンス越しに話し始めるる松坂。

最初は煙たがっていた中島も、ある日、松坂の意外な一面と繊細な人間性を目にし、心が動いてしまった。付き合い始めた二人の毎日の奮闘、いかにーーー!?

腰乃先生『あっちとこっち』のみどころ

作品のおすすめポイントを、少しのネタバレと共にご紹介します。

作品の魅力1:松坂の顔

初めて人(それも男)を好きになった中島も可愛いのだけど、それ以上にリーマン・松坂がなんとも可愛らしく見えるのは私だけでしょうか。

23歳のリーマン・松坂は、実は会社の同僚に恋をしていた。しかしその同僚が他の同僚(女性)と付き合いだし、そんな彼らから逃げるように、お昼休みに会社の外で中島と交流することになる。

そんな松坂の状況は、なかなかそんなそぶりを見せないため冒頭からはわかりませんが、徐々に松坂の状況も描かれていきます。この状況説明も、モノローグではなく、中島との会話で説明されているので、少なくてもしっかりと相手に状況が伝わり、また繊細な性格なのだけど、それを照れ隠すような行動をする松坂のキャラも読者に伝わります。

絵柄から、にぎやかな作品に読めるのですが、しっかり読み込んでいくと、実は中島も松坂も、初めての気持ち、そしてお付き合いで、お互いにどう対応していいかわからずに試行錯誤しているだけなんですね。

読者は第三者として二人の関係を覗いているだけなんですが、気持ちを汲み取っていくと、あれ、これって自分が初めて人と付き合ったりした時もそうじゃなかった!?と、懐かしい自分の思い出さえ重ねてしまいます。

また、酔っ払いシーンはありませんが、風邪をひいた松坂や、キャラ変していてそれもまた可愛らしい。いつもは大人のようで、強がっている松坂ですが、結構だらしなく、中島に甘えてくると、中島も感情のコントロールができなくなってくる。

ギャップ萌えですね。

松坂の求愛方法もかわいらしく、それに対応しきれない中島も微笑ましい。

1冊を通して散々会話はしているのだけど、肝心な部分のコミュニケーションはまだまだ前途多難なようです。

作品の魅力2:心のフェンス

物語は、高校生の中島が学校の花壇の世話をする夏休みからスタートします。この花壇の近くにあるフェンスが、隣の敷地にある松坂が働く会社との隔たりになっています。

学校のフェンスと、松坂の心のフェンスもメタファーで描かれているのが面白いです。

今までの腰乃先生の作品に少しファンタジーの要素が加わったことで、作品のクオリティもアップしています。

腰乃先生といえば、カプの会話。自然な会話の中で萌えポイントや胸キュンポイントが隠れているのだけど、文字が多いため、意外と読み飛ばしている読者もいるのではないでしょうか。

この先生の作品は、決して寝る前の癒しではない。絡みよければすべてよし、でもない。チグハグなカップルが、自分たちなりにコミュニケーションの仕方を探っていく作品で、そのヒントがセリフに隠れています。

頭の良いスマートなキャラが出てこないのも特徴です。誰が読んでも楽しめる、わかりやすいセリフで楽しませてくれる。ただ、逆を言えば、作品から学ぶこと(情報や知識)は・・・あまりないですね。w 120%エンタメ作品です。

作品の魅力3:ギャップ

この作品には、いろいろなギャップが散りばめられています。

中島のギャップは、冒頭から登場します。タバコが見つかってしまい、夏休みに花壇の世話をすることになった中島なのですが、この花壇に咲いている花をすべてチェックしています。適当なように見えて、かなりのしっかりもの。それが功を奏して松坂の世話をすることになるのですが。

年齢。中島は、隣の会社で働いている松坂を窓から見つけ、歳の差を感じます。昼休みに話しているふざけた松坂とは違った、仕事モードの彼を目にして、自分の歳を気にし始める。

そんな矢先、たまたま松坂が会社の同僚たちと一緒にいるところを見かけるのですが、そのやりとりで、松坂と言い争いになります。その言い争いも、やはり自分が年下で、相手を思いやる考慮が足りなかったのではないか、と悩むことになります。

理想。初めての恋人(男ですが)に対して、いろいろと妄想し始める中島。初めてのキスは思ったようにいかず、松坂に逃げられてしまう。枕で何度も練習するのだけど、息継ぎの仕方がわからず、どうすればいいのかと悩む中島 w

結局、予定外のシチュエーションで再度キスをするのだけど、今度は気持ちが暴走し、はどめがきかなくなります。そして、酸欠で気絶してしまう w

風邪のお見舞いで松坂家に勝手にやってきた時も、お泊まりに遊びに来た時も、尽く中島が理想としている恋人たちのやりとりのイメージが覆されていくのが、微笑ましい。

松坂のギャップは、とにかく繊細なことです。リーマンといっても23歳という設定で、色恋はまだ手探り状態。ましてや男性となんて付き合ったこともない。そんな松坂は、中島の一途な告白を受け入れてしまいます。

しかし、キスを迫られると恥ずかしくなり、しばらく雲隠れするのだけど、結局自分から行動に移すのも松坂なんですね。中島にそれ以上のことを迫られた時も、松坂はまた雲隠れします w

意外と繊細で、奥手なんです。お互いに手探りなのだけど、やはり年上根性を見せつけるのが松坂。

生活は結構だらしないところも笑えるポイント。

中島が意外と世話好きということもあり、理想の恋人イチャイチャを妄想しながら冬休みに松坂の家にお泊まりに行く中島。しかし、松坂の家が汚いことを思い出しました。デジャブ。そういえば松坂が風邪をひいた時も……。

部屋はもちろん、お風呂場も大掃除し(大変だった)、ヤル気満々だった中島も、相変わらずの松坂の態度に、まぁヤラずに穏やかに過ごすのもいいかな、なんて思っていると、急にスリスリしてくる松坂。

お互いのスイッチがわからず、やはり最後までギャップに試行錯誤する二人でした。w

腰乃先生『あっちとこっち』を今すぐ読む方法

腰乃先生『あっちとこっち』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。

私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。

どちらのサイトでもすぐにサンプルを読むことができます。

コミックシーモア:クーポンが魅力。BLに関しては、修正が少し甘めなものもあります。

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まとめ

今回は、腰乃先生の初期作品『あっちとこっち』をご紹介しました。初期の作品の中でも特にお気に入りの1冊です。チグハグながらもがんばっている二人を応援したくなる作品です。1巻完結の作品ですが、セリフが多く読み応えがありますので、しっかり読むと、この愛らしい二人がイキイキと身近に感じられます。読まれましたら、ぜひ感想を教えていただけたらうれしいです。

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