作品データ
兎の森 1巻
苑生(えんじょう)
刊行年月:2019.10.18
出版社:大洋図書 (CRAFT)
どんな作品?
苑生(えんじょう)先生の人気作品『被写体深度』に続く2作目になります。
幼少期からの1歳差の幼なじみである志井(しい)と環(たまき)。
無邪気な子供時代から恋心が生まれ、葛藤が生まれ、禁則が生まれ… さまざまな環境の変化、気持ちの変化の中で、思春期となった高校生に二人の関係が変化していく作品です。
2023年10月現在、2巻までリリースされておりますが、完結しておりません。今後ゆっくりと続きが描かれていくのだろうと思います。
作品はとても丁寧に書かれているのですが、読者も様々な考察が必要で、読み応えのある、また読者にとって挑戦的な作品となっています。(複雑な心理状態のため、先生も調査が大変そうですね・・・。)
今回は1巻をご紹介します。
カップリング
攻め:志井洵太(しい しゅんた:小学校の終わり頃から気持ちの変化に悩まされる。)
受け:弓永環(ゆみなが たまき:家庭環境による影響に悩まされる。)
あらすじ
志井と環は幼なじみ。環は1歳年上のため、学年は違うものの、幼い頃から遊ぶ友達だった。
気持ちの変化が現れたのは、志井の方。小学生の終わり頃から、環に対する気持ちに変化が見えてきた。それまでは普通の友達だったはずの環を見ると、どこか心がムズムズする。そして、体が反応するのだ。明らかに、おかしい。環は先に中学生になり、高校生になり・・・。彼女ができた環と距離を取ろうとするのだが、結局のところ気持ちは強くなるばかりだ。自分のこの気持ちはなんなのか、そして環に伝えるべきなんだろうか。
環は志井より1歳年上。志井への恋心はない・・・のだが、子供の頃から家庭の問題に悩まされる。父親がいない環は、母親が連れてくる男たちにトラウマを覚えていく。自身に彼女はできるものの、どうも気持ちがのらないのだ。友達との会話から、自分の家庭環境はどこか違う。何かが違うと子供ながらに不安になっていく。
そして、環と同じ高校にやってきた志井と再会するのだが、志井の想いを知ることになりーーー。
苑生先生の『兎の森』1巻のみどころ
今回こちらの作品をご紹介するにあたり、ご紹介なのか感想なのか非常に難しいところです。できるだけネタバレを避けながらご紹介したいのですが…
作品の魅力1:二人の全く違った葛藤
第1話から、とにかく丁寧に心の変化が描かれています。
攻めの志井の葛藤は、幼少時代から始まります。小学生になり、1歳年上の環と身体的にも差が出てきたころ。自分の環に対する気持ちが友情のそれとは「違う」ことに気づきます。
友達としてのそれではなく、体が不自然に反応する。そして環のことが気になる。知りたい、触りたい…。異変に気づき、自分の中で「ハグとかはしちゃいけない」と決めるのだけれど、周りの人との関係から徐々にそのストッパーもはずれていきます。気持ちのストッパーも…。
志井の心に生じる微妙な揺れ。その一つ一つを見せてくれているのがうれしいです。
一方、環の葛藤は、家庭環境にあります。シングルマザーに育てられた環は、幼少時代からの家庭内での環境の悪さ、そして母親からの異常な愛情に悩まされていきます。
子供の頃は環なりに状況を把握し、対応していくのだけれど、徐々に母親の気持ちの変化や環自身が成長する過程で、他の家庭とは違った状況に違和感が膨れていきます。
そんなこともあり、環は性に対する感情にどう対応すればいいのか、困惑していきます。
そんな二人の背景をゆっくり、でもしっかりと描かれているのがこの1巻です。時系列を追いながら。
丁寧な心情描写がありながらも、ハッピーエンドで終わってしまう物足りない作品ではまったくなく、十分なほどそれぞれの心情(特に志井サイド)が描かれており、男の子を好きになるという気持ち、そしてそれに加えて思春期という難しい時期。苑生先生はかなり研究されているのではないでしょうか。
作品の魅力2:リアルと・・・リアルの狭間
苑生先生のイラスト、妙にリアルですね。w
イラストの画力の高さは、他の作品も拝見して表現の仕方や視線が面白いなと思いましたが、今回の作品もやはり視線が面白い。
志井の顔に特徴があったり、どちらもイケメンというわけではないこともあり、それが逆にリアルで、物語に奥行きを出しているのだと思います。
表紙ももちろんですが、本を開いたカラー口絵にある幼少時代のイラストは特にすばらしく、無垢で生き生きした時の流れ、そして二人の関係性が見え隠れしています。夢中で遊ぶ子供ですから、それぞれが自分の世界にいるのですが、色違いの傘が何らかの二人のつながりを表しています。
こんな幼少時代からの二人を観察でき、またそれぞれの葛藤に悩んでいる二人を見ると、興味深い反面、胸が痛くなりますね。
苑生先生『兎の森』1巻のネタバレ!?感想・レビュー
志井の葛藤。同性への目覚め。おそらく何度もBL作品の中で描かれてきたテーマだとは思いますが、私が読んできた数少ない作品の中では、リアルかつ丁寧に描かれているのではないかなと思います。
知人に同性を好きな人が何人かいますが、彼らと話をした時もこのような感じだったようです。ふとした心の揺れ。その表現がなんともいえません。
一方、環の方も大変な環境下にいます。ここは、先生がいろいろと考え出したシチュエーションであり、またこういった環境が子供に与える心理的な影響もいろいろと研究していらっしゃるのではにあでしょうか。先生の作品の魅力とも言えます。しかしながら、これはもしかしたら苦手な人(地雷)がいるかもしれませんね。
個人的に好きなシーンがあります。
志井が見たことない顔をするシーン。w
自分の気持ちをコントロールできない志井と、いつもと全然違う顔を表情を見せたという事実の意味を、今ひとつ理解できていない環のチグハグさや青春という名の無垢な二人がなんとも言えません。
シリアスな物語なんですが、少し急緩をつけるためにユーモアをほどよくブレンドしています。このユーモアな表現は先生の特徴が表れているのではないでしょうか。
苑生先生『兎の森』1巻を今すぐ読む方法
苑生先生の『兎の森』1巻をを今すぐ読む方法は、電子書籍です。
最初の数ページをサンプルで今すぐ読むことができます。
私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。(どちらのサイトにもサンプルがあります。)どちらのサイトもBL作品の品揃えがよく、ほとんどの作品はサンプル立ち読みができます。また、無料で読めるBL作品がたくさんあります。
コミックシーモア:頻繁にクーポン割引があり、また同人誌や特典冊子の作品もたまに読めたりします。
Renta!:レビューを書くとスタンプがもらえる機能などあり。レンタルも豊富です。
苑生先生『兎の森』1巻のドラマCD
苑生先生の『兎の森』をより楽しむ方法として、ドラマCDがリリースされております。
思春期の、でもキラキラしていない、リアルな二人の世界を、オーディオドラマで楽しむことができますよ。興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。
メディアCDは、楽天ブックスをチェック。この『兎の森』のCDも送料無料で、割引されていることが多いです。
まとめ
いかがでしたか。少々シリアスな作品ではありますが、ゆっくり考察しながら読む作品の中でもかなり読み応えのある作品だと思います。
心理的な背景は、自分には考察するだけの十分な知識がないのが残念ではありますが、自分なりに考察するのも楽しいし、この作品をきっかけに、少し心理学の本なども読んでみたりと、いろんな好奇心が掻き立てられる作品です。
それぞれの読者なりのアプローチができるのは間違いないですし、もしかすると何か新しいことへの一歩につながる作品になるかもしれません。
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