苑生先生『兎の森』2巻:二人の情欲がゆっくり解放されていく

苑生
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今回は、苑生先生の問題作『兎の森』2巻をご紹介します。

2023年9月、休載中ではありますが、物語は完結しておりません。

2巻では、環の家庭環境の問題、そして志井が中学時代にどうやって自分の気持ちを肯定していったかが描かれております。

作品データ

兎の森 2巻

苑生(えんじょう)

刊行年月:2021.01.18

出版社:大洋図書 (CRAFT)

どんな作品?

1歳違いの幼なじみの環と志井。幼少時代から環に想いを寄せていた志井は、自分の気持ちを打ち明け、とある罰ゲームから二人はお試しで付き合うことになったところから2巻が始まります。好意は志井から環への一方通行。そして環は自分の家庭環境の問題と対面していきます。
2巻はそれぞれの背景がもう少し描かれています。自分の気持ちを「変なもの」としていた志井が、その気持ちを肯定するきっかけになったお話。また、自分の家庭環境が他の人と違うと気づき、また母親からの愛情にも恐怖やプレッシャーを感じるようになっていく環。そしてそこに性の問題が絡んでいきます。
作品はとても丁寧に書かれているのですが、様々な考察が可能で、読み応えのある、また読者にとっても挑戦的な作品となっています。

 

カップリング

攻め:志井洵太(しい しゅんた:自分の気持ちは正しくないのか、葛藤します。)

受け:弓永環(ゆみなが たまき:母親からの行き過ぎた愛情に恐怖を感じ、また自分の中で芽生えている感情をなんとか封印しようとするのだけど。)

あらすじ

1歳差のある幼なじみ、志井と環。仲のいい友達と思っていた環に不思議な感情を抱き始めた志井は、その気持ちがなんなのかを解消するため、自分の心のうちを探ろうと、試行錯誤する。
環に想いを伝え、無理矢理付き合うことになった二人だが、環にはその気がないのか、微妙な関係だ。
自分の気持ちを少しずつ解放していく志井とは裏腹に、頑なに自分の気持ちを隠そうとする環。環には家庭環境の問題があった。母親の男性遍歴、そしてその後の母親からの異常な愛情。
性に対する罪悪感や複雑な心理が絡んだ環の心境を汲み取ろうとする志井。そして、抑えきれなくなっていく感情に徐々に対応しようとしていく環。二人の関係はどのように近づいていくのか。

苑生先生の『兎の森』2巻のみどころ

作品の魅力1:ユーモアあふれる二人のチグハグな感情とズレ

2巻はもう先生のユーモアが魅力としか言いようがないです。w
Tシャツのクダリがすべてを物語っています。(ぜひ2巻、読んでください。w)

ユーモアは志井サイドのお話でもたっぷり表現されています。自分の昔からの気持ちが、徐々に欲情寄りのものになっていくことで、「自分は変なのではないか」そして「罪悪感」を感じるようになる志井。

その気持ちを環にぶつけることができず、タクミさんという大学生と知り合うことになります。

ここら辺のやりとりも、先生らしくユーモラスに描かれてはいるのですが、かなりシリアスな問題だし、設定上、志井は中学生ということになってますよね…。こういったところが逆にリアリティがあり(普段自分たちは目にしないけど、実際あるんじゃない!?って思っちゃうシチュエーション)物語に奥行きがでています。

そして、2巻では、攻める志井が、ずっと封印していた環の心の鍵を開けて行きます。

ただそれは、欲情の行為として表現されているのだけど、二人の心が扉が少しずつ開いていく感じで、思っている気持ちをゆっくりと言葉に表していきます。

この二つのことは(今のところ)別々の行為として読み取っていますが、もしかすると…欲情の行為は二人の心のメタファーなのかもしれませんね。

作品の魅力2:環のお母さん

環のお母さん。作品の魅力というと、語弊がありますが、二人の葛藤のやりとりで、特にこの環のお母さんの存在が強烈です。環の生活スタイルや価値観、そして性格。すべてに影響を及ぼしている。当然悪影響なんですが。

この作品がとてもシリアスなものに感じるのは、志井よりもこの環の環境です。なんとか重くならないようにしようとしている…かどうかはわかりませんが、先生のユーモアでバランスは取れているのですが…。

実は、この作品を読んで、初めて自分の心に「揺れ」を感じました。w

というのも、おそらくこのお母さん、私の地雷です。

行き過ぎた愛情(欲情さえ入っていると思わせるような描写もあり)、そしてそれが子供に与える影響を少しだけ実際に見たことがあり、調べたことがあるのですが、このトピックは嫌悪感を抱きます。おそらく自分の苦手なトピックです。

もちろん、作品は問題なく読むことができますが、地雷はおそらくないだろうと思っていた自分だったので、新たな発見に驚きました。🧐

作品の魅力3:環の欲情の解放

性欲がないように見えた環。もちろんそれは彼の幼少時代の環境から来るもの。

母親との環境から、人を好きになる気持ち、そしてさらに行為に関する拒絶感が強いのが環です。その行為をすることで、自分も「加害者」になる、と感じる。そしてさらに、女の子を好きなのかさえ疑問に感じている。

環の家庭環境からくる影響は、愛情、さらには思春期という時期の欲情にも影響を及ぼしていきます。環の葛藤は… 非常に複雑。苑生先生はおそらく心理的な背景から調査をして作り上げていったストーリーなんだと思います。

拒絶感、絶対に解放してはいけない自分の欲情。それは自分が母親と一緒にいた男たちのようになる、という嫌悪感もあり、さらには自分も母親のような人と違った愛情を誰かに抱くのではないかという恐怖感から来ているのではないでしょうか。

1巻ではまったくその気がなかった環ですが、2巻で少しずつ志井との接触が増え、少しずつ環の中で動き出した心の奥の疼き。触られた時に強く抵抗できるはずなのに、嫌々ながらもそれを受け入れる環の態度からも、その心の疼きはなんなのか、またそれを解放したいと無意識のうちに思っているのではないかという表現がいくつか出てきます。

学食でのシーン。口から水がこぼれた志井を見る環。明らかに意識しているし、何か自分の心の中で「変化」を感じている描写です。

そして、2巻後半で環はいいます。
「やっちゃいけない事ばっかうするのが志井じゃん。」

抱きつかれた時も、拒絶はできた。
キスしてきた時も、拒絶はできた。
でもしなかった。

環には「ぜったいやらないこと」リストがあるのだけど、そのリストに書かれていることを、志井が自分にしてくるのではないか。そういった気持ちが環の中にあるようです。自分ではできない。でもそのできないことを志井が自分にしてくれるという淡い期待のようなもの。無意識のうちに、環はそれをわかっていて、志井との関係を断ち切ることができない。

また、その気持ちが欲情なのか、それ以上の感情があるのか、芽生えるのか…。

その辺りは2巻だけではわかりません。

苑生先生『兎の森』2巻を今すぐ読む方法

苑生先生の『兎の森』1巻をを今すぐ読む方法は、電子書籍です。

最初の数ページをサンプルで今すぐ読むことができます。

私がよく利用する電子書籍サイトは「コミックシーモア」かレンタル本が豊富な「Renta!レンタ」です。(どちらのサイトにもサンプルがあります。)どちらのサイトもBL作品の品揃えがよく、ほとんどの作品はサンプル立ち読みができます。また、無料で読めるBL作品がたくさんあります。

コミックシーモア:頻繁にクーポン割引があり、また同人誌や特典冊子の作品もたまに読めたりします。

Renta!:レビューを書くとスタンプがもらえる機能などあり。レンタルも豊富です。

苑生先生『兎の森』2巻のドラマCD

苑生先生の『兎の森』をより楽しむ方法として、ドラマCDがリリースされております。

ドラマCDのvol.2は、2023年9月29日にリリース。

思春期の、でもキラキラしていない、リアルな二人の世界を、オーディオドラマで楽しむことができますよ。興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。

メディアCDは、楽天ブックスをチェック。この『兎の森』のvol.1 は送料無料で、割引中です。vol.2は、2023年9月29日リリース。

まとめ

いかがでしたか。少し真面目なおしゃべりになってしまいましたが、この作品、つっこみどころもあるんですよ。

漫画として軽く読むこともできます。が、やはり個人的にはいろいろと考察して、二人の関係性や、どうやって心が動いていくのか、家庭環境から来る子供の心理など、読みどころや考察ポイントは、読者によって違ってくると思います。

もちろん、苑生先生はそこまで考えて描いていないかもしれない。w

読み手なりの楽しみ方を見つけていただければと思いますが、いい意味での問題作であることには間違いありません。(^^)

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