こんにちは。
いつもは漫画をご紹介していますが、今日はBL小説をご紹介しようと思います。
この作品を筆頭に、著名なBL小説家さんの作品を2024年から少しずつ拝読していましたが、漫画同様、様々な設定や書き手の方がいらっしゃいました。
ラノベのような小説を読んでいたのは、かれこれ四半世紀前……。中年となった今は専門書くらいしか読んでいなかったので、久しぶりに楽しくなってしまいました。
読んだ作品全ての感想をアップする予定はありませんが、惹かれる部分があった作品のみ、ピックアップしていくつかご紹介しようと思います。
今回は、砂原糖子先生の『月は夜しか昇らない』をご紹介します。
作品データ
月は夜しか昇らない
砂原糖子 Toko SUNAHARA
イラスト:草間さかえ Sakae KUSAMA
刊行年月:2022年06月25日
出版社:新書館(ディアプラス文庫)
どんな作品?
砂原糖子先生の2022年作品。
2041年という近未来を舞台にした恋物語です。
ほのかな近未来感が楽しめ、フィクションながらも砂原先生が考える今とは違った日本はどのように描かれているのかを楽しむのもポイント……いや、それは私のBL小説の読み方が間違っているのかもしれませんが。w
警視庁の日陰部署で監視業務に就く玖月(くづき)と、弁護士の戸明(とあけ)のお話。
二人の関係が近づいていく過程が描かれているものの、玖月の特殊な仕事環境(部署)の描写からは、プライバシーの概念、玖月の幼少時代のお話、戸明の家庭環境など、詳細も丁寧に描写されており、どちらかというとその部分から砂原先生が思う近未来の情景を窺うのが興味深かったです。
近未来といっても、宇宙船が出てくるようなお話ではなく、ガジェット描写がちょっと近未来の雰囲気が出ている程度で、少なくても日本人の基本となる考えや生活習慣はそれほど変わっていないようです。
テクノロジーの進歩により私たちの生活は便利になった……という錯覚に陥っている現代を皮肉っているようにも読み取れます。
「本物」に触れることが貴重な経験となった描写は、それほど近未来の話ではないのかもしれませんね。
また、戸明が自分の性的指向を伝える際に戸惑いを見せる描写もあり、この近未来では、まだ性的指向への理解やマジョリティーの概念は変わっていないようです。
少し難しい設定のようには感じますが、恋心の描写も、BL描写もしっかりとあるので、たっぷりと楽しめました。
カップリング
攻め:玖月論(くづき ろん:警視庁の日陰部署配属で、モニター越しに被疑者の監視業務をしている)
受け:戸明依史(とあけ よりふみ:弁護士。父親から受け継いだ法律事務所を経営する)
あらすじ
舞台は2041年。玖月論は警視庁刑事部のとある部署に所属する。モニター越しに薬物使用の疑惑のある被疑者たちの自宅を監視し、容疑の証拠を見つける仕事をしている。
そんな彼が監視している「16番」の男、それが戸明依史だ。一人暮らしにはもったいないくらいの広い部屋に住み、決まった時間になると、リビングにある大きな水槽にいる熱帯魚たちに餌をやる。
そんな戸明が、ある日、涙を流して泣いていたのを見たのだ。なぜ涙を流しているのか。偶然にも街の中で戸明を見かけた玖月は、彼に話しかけて涙の正体を探ろうとするのだがーー。
砂原糖子先生の『月は夜しか昇らない』:ネタバレ!?感想・レビュー
この本を手に取った理由は、草間さかえ先生のイラストです。
2023年から草間先生の作品を読んできて、先生の描く作品はもちろん、イラストも好きで、先生の描く挿絵はどんなものがあるんだろうと探して、この本にたどり着きました。
ですので、いわゆる「小説のジャケ買い」をしました。w
砂原糖子先生はベテランの小説家のようで、すでにたくさんの作品を発表されています。人気のシリーズも多いようなので、今後ゆっくり、他作品も読んでみたいです。
設定背景
2041年という近未来のお話。
あとがきによると、物語の設定を書きやすくするためにこの設定にしたようなので、そこまでこだわりはないのかもしれませんが、私は細かな設定に興味がわきました。
まず、ガジェットが進化している。
時計やタブレットなどの表示方法が近未来・・・のような雰囲気になっています。w 映画『マイノリティ・リポート』のような感じでしょうか。モニターを見るのではなく、目の前に立体的にバーチャルが広がる世界。
以前、芽玖いろは先生の『愛を食べて生きている』を読んだ時にも感じましたが、今後ゴーグルグラスのようなものが実用化されていくことで、私たちの世界はがらりと変わるのではないか、と思っています。
2019年あたりからの流行病があったころから、今までの「価値観」が一気に変わりつつあります。ゆっくり、でも確実に。
そういった中で、この作品ではガジェットなどの技術の進歩がさらっと描かれておりますが、近い将来、本当に実現する社会の一つなのでは、と思います。
リアルの希少性
熱帯魚、犬や猫などのペット。そういったものは、リアルで飼うのが希少だという描写があります。その代わりがロボット、もしくはホログラムの熱帯魚を飼う人が多いのだと。
これも、近い将来そうなっていくのだと思います。
これからは、物理的なものではなく、多くのものがバーチャル化されていくのではないでしょうか。
ただ、多くのものが「便利だから」などの理由でバーチャルかされていく代償は、私たち人間のメンタルの問題。
ペットを飼う理由:触れ合い。動物や人、ものを触る時の感触、匂い、音……。そういった五感を燻るものが排除され、情報(コンテンツ)だけが提供される世界。
これは、近未来というよりも、今まさにそうですね。ここからくる人間のメンタルへの影響は、私たちや社会に大きな影響を与えていくな、と思います。
情報のスピードを抑えることはできない。人間の知能、対応のスピードは抑制できるが、ますます対応できる人とそうでない人の「差」が広まっていくのではないでしょうか。
マイノリティの性的指向
戸明(とあけ)は、玖月(くづき)と出かけた際に、自分がゲイであることを伝えます。そしてそこに「戸惑い」があります。
2041年という背景設定において、恋愛話をする上で、自分がゲイだということを伝える時の戸惑い。やはり、性的指向はオープンになってきているものの、やはりマジョリティとマイノリティの概念が存在しているのだな、と示しているシーンです。
動き
人間は、なぜ動くのか。
物語の世界は、主人公たちは、街の中を歩きます。タクシーも存在しています。
現代社会の人間は昔に比べて歩かなくなったと言われていますが、砂原先生が描く世界では、まだ現代のような人間らしい!?日常生活が展開されています。
オートドライバーの車でもなければ、空飛ぶタクシーも(まだ)ない。
物語のポイントはこの世界観ではないのはわかるのだけど、これから10数年ほど先の世界はどう変化していくのか、想像してしまうのです。
大きな変化を求めない日本のこの描写に比べて、人口が増え続けているインドやアフリカ、そして大国アメリカや中国はどのように変化していくのだろう。
人間関係の気薄性
戸明は31歳。今までずっと恋人がいたことがない、という設定。
BL作品によく見る設定ではあるのですが、近未来…いや、今現在においても、恋人のいない20, 30代が「普通」になってきた昨今。
女性は晩婚化傾向にはあるものの、パートナーがいる人は多いのだけど、男性に関しては未婚・シングルの割合は増加傾向にあるようです。
さらに、ゲイに関して言えば、独身率は非常に高いです。それは、結婚というシステムの問題だけではないようです。
また、戸明は父親の不祥事の尻拭いも兼ねて、弁護士事務所の経営者となります。こういった仕事やお金に対する価値観というものも、近未来には少しずつ変わっていくのではないかな、と思います。
プライバシーの重要性
戸明と玖月の二人の関係は、「恋」に落ちる過程が描かれています。
玖月は、モニター越しに監視(観察)し続けてきた戸明に興味を持ちます。ロマンスものとして読むので、いいお話……なんですが、要はプライバシーがありません。
プライバシーの重要性も、考えさせられる作品です。プライバシーの重要性を訴えた一人は、エドワード・スノーデン氏。
スノーデン氏は言いました。
“Without privacy, you can’t have anything for yourself. Saying you don’t care about privacy because you have nothing to hide is like saying you don’t care about free speech because you have nothing to say.”1 (https://news.arizona.edu/story/edward-snowden-compares-privacy-freedom-speech)
そして、スノーデン氏が訴えるプライバシーの需要性。ここでも、自分が「何か」を所有するとき、プライバシーが大切だ、と言っています。
人間の権利として守られるべくプライバシーが、ますますなくなっていく近未来の日本は、もうすで目の前にきているのでしょうか……。
幸せの象徴
物語の中で、戸明の部下が結婚します。
「結婚」を幸せの象徴として描かれるところ、近未来でも変わりませんでした。
そういえば、昔から、アートにおいて、結婚は幸せの象徴として描かれました。その長い人間の歴史は今も変わらないです。結婚の目的が多様になったとしても、恋愛、そして幸せのシンボルは、同じ。
私にとっては、面白い観点でした。
BL要素
二人の関係性、とくに距離が近づいていく過程にはドキドキしました。
また、意外と言葉責めがあるんだな、というのが感想です。攻めの玖月は年下なんですが、男性相手は初めてといいつつも、言葉責めが……。w
小難しいことを考えつつも、普通にBL小説として楽しめる作品で、楽しかったです。
砂原糖子先生『月は夜しか昇らない』を今すぐ読む方法
砂原糖子先生『月は夜しか昇らない』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。
私がよく利用する電子書籍サイトは「ebook japan」かレンタル本が豊富な「
Renta!レンタ」です。
どちらのサイトでもすぐにサンプルを読むことができます。
ebook Japan:クーポンが魅力です。無料漫画も多々あり。
Renta!レンタ:レンタルやスタンプ機能などがあり。そしてBLCDや、他では扱っていない短編の電子も独占購入が可能。
コミックシーモアの月額コミック読み放題が一番お得!BLも読み放題!
紙本は楽天を利用しています。電子書籍もありますし、洋書の取り寄せも安心。
日本企業を応援しております。
まとめ
今日は、砂原糖子先生の『月は夜しか昇らない』をご紹介(というか、勝手におしゃべり)しました。BL作品ではありますが、個人的には砂原先生が描く近未来の世界観に興味を持ちました。
私が読んだ2作目のBL小説になりますが、いろんな楽しみ方があるものだな、と。小説の方が世界観が頭の中に広がって好きなので、他の作品もいろいろと読んでみようと思っています。
みなさんのオススメやお好きな作品など、ありましたら教えてください。😊
コメント