京山あつき先生『スリーピング・バグ』:0か1かバイナリーの狭間の感情

京山あつき
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こんにちは。

今日は、京山あつき先生の『スリーピング・バグ』をご紹介します。

性欲のない恋は存在するのか。リスペクトなのか、愛情なのか。微妙な感情が描写された良作です。

作品データ

スリーピング・バグ

京山あつき Atsuki Kyoyama

刊行年月:2017年05月05日

出版社:祥伝社(on BLUE comics)

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どんな作品?

京山あつき先生のon BLUE comicsから2冊目のコミックス。

体の関係にあまり興味のないSEの潤野(うるの)は、仕事もバリバリの先輩・本郷が気になっていた。そんな二人の押し問答です。

潤野は本郷に気があるのだけど、性欲はわかない。この気持ちはリスペクトなのか、恋なのか。

本郷は、体の関係がないことには耐えられないと、潤野との関係を断とうとするのだけど、気持ちがないわけではない。

そんな気持ちと体の狭間を行ったり来たりするお話です。

ベンチャーIT系の世界、同僚たちのあれこれも交えながら、物語は進みます。

京山先生の作品は、いつも心情描写が巧みだなぁと思いますが、今回は主人公・潤野の感情を汲み取るのが少し難しかったです。それは、表現の問題ではなく、潤野の性格上の問題だと思います。

自分ではわからず、同僚に問いたり、本郷と話し合ったりすることで、会話で描写されていくので、今まで読んだ京山先生の作品とは少し違った印象があります。

ですが、人を好きになって、自分の中で変わっていく感覚が鮮明に興味深く描かれていて、やはり人間の内面を描くのがすごい先生だな、と実感しました。

『on BLUE』vol. 19, 20(2015年10, 12月), vol, 22〜vol. 27(2016年4月〜2017年2月)までに連載された8話、そして描き下ろしが収録されています。

カップリング

攻め:本郷(会社の先輩。愛情の表現方法がわからない)

受け:潤野(本郷に何らかの感情を持つ。)

あらすじ

潤野はSEとして学生時代にインターンに参加したベンチャー企業に勤めた。会社は成長し、大きな会社に買収され、潤野や先輩の本郷たち、各々が他の会社で働くことになる。潤野は学生時代から気になっていた本郷を追って他の会社に移るのだが、そんな本郷は、潤野を置いて他の会社に移動。

ショックだった潤野のところに、しばらくしてから本郷の悪いニュースが。どうやら会社の借金で首が回らんくなったのだとか。

潤野は再会した本郷を見て、「500万で本郷を買う」と言うのだがーーー。

京山あつき先生『スリーピング・バグ」:ネタバレ!?感想・レビュー

人はなぜ体を重ねたくなるのか。

そんなことがテーマの一つにあるのではないでしょうか。

今回は、とても考えさせられるお話でした。

まったく違った恋愛タイプの二人が、違ったペースで恋愛していく難しさ。でも、話し合い、寄り添おうとするのが伝わるお話です。

作品の魅力1:内側のつながり

主人公・潤野本郷の気持ちが、「好き」という恋心なのかどうかはっきりしないのもこの物語の特徴です。

物語の後半に、言葉化されますが、多分二人が会話下手だからなのか、恋愛下手だからなのか、なかなか行動に現れないんです。

潤野は、学生時代からインターンで本郷と一緒に仕事をしていて、本郷の恋愛論を何度か耳にしたことがあります。女性が好きなことも知っている。でも、本郷と一緒に仕事がしたくて、彼と同じ会社で働きます。

潤野の内側には、好意はあるのだけど、それが恋なのかどうか、自分が本郷と何をしたいのかははっきりとわかりません。あるのは、一緒にいたいな、側にいたいな、という気持ち。

一方本郷は、内側の好きな気持ちを表に出したり相手に伝えたりするのが下手。言葉にもあまり出さないから誤解されるし、その気持ちは性欲という形で表現されるので、外側のつながりはあっても、内側の繋がりを相手が感じることが難しいようです。

噛み合わない二人は、どうやって自分の気持ちを見つめ、相手に伝えていくのでしょうか。

ぜひ本編で読んでみてください。😊

作品の魅力2:外側のつながり

潤野は本郷に対して気持ちはあるのだけど、それが性欲という形で現れてこない。

恋愛はおそらく初めて。本郷との会話で、女性に対する性欲はあるようだけど、潤野の気持ちは間違いなく憧れではなく好意で、それは本郷に向いている。

でも、好きという気持ちは性欲に繋がる本郷としては、それが理解できず、きっと潤野の気持ちは自分に対する憧れのようなものなんだろうと理解しようとします。

潤野のセックスに対する考え方は少しずつ変化していくのですが、セックスは、行為そのものとしても取られられますし、愛情のメタファとしても描かれています。それに対する考え方が変わっていくということは、潤野の中で恋心が育っているという意味でもあるのかな、と。

面白いのは、それを受け入れる本郷の性的指向は謎だということ。

ノンケやゲイという概念は、直接的な言葉では登場しません。が、どうやら本郷はゲイというわけでもない。

そんな関係性のため、最後まで二人の中にある気持ちが恋心なのかはふわっとしていて正直わかりません。w

本郷にとっては、外側のつながりは必須。

内側の気持ちを相手に伝えるのが下手な本郷は、それで過去の恋愛に失敗してきました。気持ちがなくても外側のつながりを求める人とレッテルを貼られてしまい、そんな噂話を聞いた潤野は、本郷が求める外側のつながりにどう対応していいのか不安になります。

けれど、二人は「会話」でお互いを知ろうとしていきます。

会話の少なそうなSEが会話でつながっていくのも面白いです。

作品の魅力3:自然とは

京山先生の『すのーふれーくす』でも感じましたが、先生が描かれるキャラは少しクセがあったり、大多数に属さないキャラ。周りと違うため、自分は奇妙な、変だと人と隔たりを作ってしまうようなキャラが多いかもしれません。

でも、大多数だからそれが正しいというわけでもないし、そもそも世の中に全く同じ人間はいない。自然とは、同じものがいない、唯一無二の存在。そんな中から潤野や本郷のようなキャラのあれこれを(フィクションながら)覗けるのが楽しい。

2022年以降読んできた本や漫画は、わかりやすくはっきりとした描写のものが多かったのだけど、実際の人間は予想している通りに動かないから面白いのです。そんな自然の中でたまたま知り合った二人がああだこうだと対話しながら関係を築いていく、健気な物語に魅力を感じました。

お互いをわかるはずもないけれど、諦めるのではなく、いろんなアプローチで近づいていく過程が好きですし、根底にはやはり好きという気持ちがなければ、お互いに歩み寄ることは難しいなと思います。

愛情とは、情欲だけでなく、関心なのだと思います。

昨今の政治的混乱が起こるのも、もしかしたら私たちに愛情がなくなってきたからではないかな。

人間は、コンピュータのように感情なく論理で物事を考えすぎなのではないかな。

だから、物事に心から関心を寄せることができなくなっているのではないか?自然(予想のできないもの)に対応できなくなってきたのでは?なんて、考えたりします。

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まとめ

今回は、京山あつき先生のon BLUEコミックス『スリーピング・バグ』をご紹介しました。論理的に考えたいSEが予想できない恋という感情に出会ったとき、どう対処するのか。ぜひ読んでみてください。京山先生の作品はどれを読んでも奥が深く、考えさせられる作品です。

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