こんにちは。
今日は、尾上与一先生の2023年作品『セカンドクライ』をご紹介します。
若い画家と、世間を知らない秘書見習いのお話。二人の間に育つ愛情を汲み取るのは少し時間がかかりましたが、物語の構成がとても面白かったです。
作品データ
セカンドクライ
尾上与一(イラスト:草間さかえ)
刊行年月:2023年02月28日
出版社:徳間書店(キャラ文庫)
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どんな作品?
『1945シリーズ』で有名な尾上与一先生のキャラ文庫から5作目。
草間さかえ先生の緑を基調としたカバーイラストに惹かれて、こちらを読んでみました。
雑誌『小説Chara』vol.44(2021年7月号増刊)に掲載されたタイトル作は、画家である奥園桂路(けいじ)の視点で、書き下ろしの後半は秘書見習い・慧の視点で描かれています。
それにしても、やはり本は読んでみないと、あらすじからは空気感がわからないものですね。想像していたのと良い意味で違った空気感を楽しめました。
画家として生計を立てるのがなかなか難しい桂路と、兄の死をきっかけに一緒に生活を共にすることになった、秘書見習いの慧(さとし)のお話です。
家族と疎遠だった桂路は、自分のことを気にかけてくれていた兄・麒一郎が死に、彼の手書きの手帳を相続します。そこには、兄から託された願いが書かれているのですが、その手帳の存在もあり、物語は桂路と慧だけでなく、兄の存在も常にあるのが面白いです。
カップリング
攻め:奥園桂路(けいじ:資産家の実家と縁を切り、画家として生計を立てようとしている
受け:保坂慧(さとし:兄の秘書見習いなのだが、複雑な生い立ちがある)
あらすじ
資産家の家系に生まれた桂路は、自分は家を継がないと、画家になり実家と疎遠になっていた。そんな桂路をいつも気にかけてくれていた兄が亡くなり、兄からあるものを相続することに。それは、秘書見習いの慧だ。
仕事はできるが、複雑な家庭事情から「普通」の生活を知らない慧と一緒に暮らすことになるのだが、慧に教えるつもりが、描きたいものを見失っていた桂路は自分自身を見つめ直すことになるーーー。
尾上与一先生『セカンドクライ』:ネタバレ!?感想・レビュー

作品の魅力1:慧
慧のキャラが色濃く出た作品でした。特徴あるキャラなので、ブレない描写も読みやすかった。彼特有のロジックがあり、そのロジックにひたすら忠実に従う。応用は全くきかないが、それは複雑な家庭環境から形成された彼の性格なのだろか。
物語を読み進めると、慧の生い立ち、なぜ若い彼(大学生)が兄の元で秘書見習いをすることになったのかが見えてきます。そしてそんな彼の生い立ちを知るたびに、桂路は自分の兄のことについても、理解を深めていくことになります。
いわゆる「普通」がどんなものかわからない慧にそれを教えようとする桂路ですが、慧との日々の生活を通して、桂路は自分の心の奥を探り、自分がどうしたいのか、画家である自分は何を描きたいのかと、自己探求にもなっていくのが面白い。
前半であるタイトル作は、桂路の視点で描かれているため、慧の描写がはっきりしていますが、桂路の描写はほとんどありません。
草間さかえ先生のイラストを頼りに想像するのですが、桂路の描写は冒頭から最後までつかみどころがなく、彼の心は覗けるのだけど、心の中と、彼が口にするセリフが今ひとつリンクできず、桂路の動きを頭の中でイメージするのは少し難しかったです。
作品の魅力2:兄・麒一郎の存在

桂路の兄である麒一郎は、物語の冒頭で他界してしまいます。しかし、彼が桂路に残した遺言といいますか、遺産の一つである手書きの手帳に記された言葉で、存在感がアピールされています。
慧は麒一郎に助けられたこともあり、とにかく彼を慕っている。麒一郎と約束をした通り、弟である桂路のサポートに全てを捧げる。
桂路は、実家と疎遠だったこともあり、いつも気にかけてくれていた兄のこともあまりよくわかりません。手書きの手帳を介して、少しずつ麒一郎のことを知っていくことになります。
物語のツールとして使われている手帳ですが、この存在感が大きく、桂路と慧を繋げ、そして二人に自分を見つけるきっかけを与えています。
作品の魅力3:草間さかえ先生のイラストレーション

この作品を手に取ったのは、草間さかえ先生のイラストがきっかけでした。
草間先生の使われる緑がとても好きで、この作品でもビビッドな緑が使われています。
桂路の大人っぽさと、対照的な若さの残る(実際若いですが)慧の特徴あるイラストが素敵です。
作品の魅力4:アート

主人公の桂路は、画家。
私はアートについて詳しくはないけれども、美術館の展覧会などには時々足を運ぶことがあります。でも、接する機会はそのくらいで、ギャラリーや個展などには行ったことがありません。
ルールのようなものはわからないのですが、この作品を読むと、そんな世界にも少し興味がわきました。
アートのような抽象的な世界の評価のされ方や、アートの探し方、楽しみ方。
生活に少しでもアートがあると、癒されると思いますが、そう思えるためにも、精神的にも物理的にも平和な日々が続くよう、願うばかりです。
気になった点:愛情

二人の間に芽生える愛情。
BLなので、重要な要素なんですが、私にはこの愛情部分を読み取るのに苦戦しました。
桂路はなぜ慧に惹かれるのか。容姿の美しさに魅せられているのはわかるのだけど、それ以上に感情を動かされるのは、どういったところからだろう。
また、慧に関しても、慧のようなロジカルな視点の持ち主にとって、さらに恋愛経験のない彼にとって、桂路のどこにどう惹かれていったのか、少し曖昧に感じました。
全体的には楽しめた1冊ですが、もう少し恋愛描写をじっくり見せてほしかった気持ちが残ります。
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まとめ
今日は、尾上与一先生の『セカンドクライ』をご紹介しました。
お話も長くないですし、細かくチャプターに分かれていて、構成的にも読みやすい作品になっています。
尾上先生は2026年、作家活動15周年を迎えられたようです。これからも様々な創作活動を楽しみにしています。
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