尾上与一先生『夜明けの星と詰まない初恋について』:今を見る蛍と過去に囚われるナオ

尾上与一
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こんにちは。

今日は、尾上与一先生の棋士の物語『夜明けの星と詰まない初恋について』をご紹介します。

棋士・蛍が自分と向き合い、前に進むお話です。

作品データ

夜明けの星と詰まない初恋について

尾上与一 Yoichi Ogami
イラスト:木下けい子

刊行年月:2026年03月31日

出版社:徳間書店(キャラ文庫)

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どんな作品?

将棋が趣味だという尾上与一先生が書き上げた、棋士たちのお話です。

2019年にリリースされた『初恋をやりなおすにあたって』のスピンオフ作品とのことですが、初恋〜を読んでいなくても楽しめます。

日本人離れのルックスをしたイケメン棋士・蛍と、天ぷら屋の板前・ナオのお話。

棋士として注目をされながらもいつもいいところで負けてしまう蛍には、そうならざるを得ない複雑な事情がありました。

スポットライトを避けるように、タイトル戦でも勝つことはなく、取材や写真などのメディアから距離を置いている蛍でしたが、ある日、路上で崩れているナオと出会います。

よくよく見てみると、以前行ったことのある天ぷら屋の板前だと気づき、家へ連れて帰り、不思議な同居がスタートします。

もちろんBLではあるのですが、お話のメインは蛍の家庭事情、そしてそこから形成された彼のパーソナリティや棋士としてのアイデンティティの問題など、さまざまな要素が描かれています。

そして、想い人・ナオの他に、幼なじみであり親友でもある柊一郎の存在も大きく、それぞれの視点で描かれていきます。

木下けい子先生のイラストも素敵で、なかなか掴み所のない蛍が華麗にビジュアル化されていてファンの方にもうれしいのではないでしょうか。

タイトル作(書き下ろし)、『午前零時の紫の上』(キャラ文庫アンソロジーIII『瑠璃』(2021))『桜の咲くころ』(書き下ろし)の3話が収録されています。

カップリング

攻め:東海林蛍(棋士。複雑な家庭環境で育ち、「自分」を模索している)

受け:芳田直幸(天ぷら屋の板前。しかし実は複雑な過去が……)

あらすじ

ほどほどに注目はされるも、肝心な試合で勝つことなく、棋士としてのプライドを保てるギリギリのところに自分の居場所を見つけていた蛍。そんな彼はある日、路上で崩れている男を見つける。その男は以前幼なじみの柊一郎に連れて行ってもらった天ぷら屋にいた板前・直幸だった。

雨に濡れた彼を自分の家に連れて帰り、ご飯を作ってもらう。うまい飯に胃袋を掴まれたか、行き場のない彼を住まわせることを決め、同居をスタートさせるのだがーーー!?

尾上与一先生『夜明けの星と詰まない初恋について』:ネタバレ!?感想・レビュー

全体を通して、面白かったです。

BL作品ではありますが、どちらかというと蛍という人間の物語。

私は尾上先生の短編を読んだことがあり、その時は読みやすいと思ったのですが、この作品は独特な空気感があり、流し読みではなく少し本腰を入れて読まないと流れを見失う時があります。(多分私の睡眠不足のせい……)

作品の魅力1:蛍のアイデンティティ

蛍という人物は、実に複雑。適当に生きているように見えるのですが、実は、それは複雑な家庭環境で育った故のサバイバル術。

物語は、蛍が同居人であるナオに想いを寄せているところからスタートします。

この二人がゆっくり距離を縮めていくBL作品なのだろうと思っていたら、実は蛍が自分のアイデンティティを見つけていくお話になっていました。

家庭環境

蛍は、フィンランド人の母親と日本人の父親(東海林)の子。実は母親は東海林と不倫をしていた。そして、そんな彼を追って、日本へやってきたところから、蛍の人生が複雑になっていきます。

日本人離れした容姿ということもあり、目立たないようにと育てられた蛍は、住むところも転々とします。そのせいで日本語やフィンランド語もままならず、友達もできない。家族からの愛情も感じない。そんな時、ナニーに教えてもらったのが将棋でした。

なにかと目立ちすぎると父親からの邪魔が入るため、棋士として生活する蛍は、取材などのメディアを避け、またタイトル戦で勝つことも避けます。棋士としてのプライドをキープできるぎりぎりのラインを保ちながらも、勝つことへの執着を持たない。

しかし、ナオと出会い、将棋との向き合い方も少しずつ変わっていきます。

柊一郎との関係性 惑い

そんな蛍の家族の事情を理解しているのが、幼馴染みであり、同じ棋士でもある柊一郎。

柊一郎も裕福な家庭で育ち、そして棋士としての蛍の才能も知っている。今となっては親友であり、恋の相談相手でもあります。

作中、柊一郎と蛍の関係が面白く描かれており、二人とも独特な空気感を持っています。気取った風には描写されていませんが、多分それは互いの(裕福な)家庭環境が反映されているからかもしれません。

この二人がラブの関係にならないところも、面白いです。(BL的にはそちらを期待してしまいがち……w)

ラブ

蛍は「自分」を模索しているため、恋愛に関しても未経験。ナオに想いは寄せますが、実際の恋愛経験は皆無。ですので、感情の表現も特殊だし、ましてや駆け引きなどもできません。

ナオには秘めた過去があり、ナオは何度もそれを伝えようとするのだけど、蛍は聞きたくない。蛍は今のナオの関係を見つめたい。

恋愛にかかわらず、そういった物の考え方も、蛍の魅力です。

棋士としてのプライド

 

蛍とナオは互いの気持ちを伝えるのだけど、すれ違います。

蛍は自分を拒絶されたくない。

ナオは何らかの過去があり、それをどうしても蛍に告げねばならない。

二人の距離が近づいた矢先に、将棋トーナメントで勝ち進んでしまった!?蛍は、そのストレスや準備などで忙しくなりますが、彼の頭の中はやはりナオのことでいっぱい。ナオに自分の想いを伝えるには、将棋を通して自分の意志を見せるしかないと、蛍は決意します。

お話は、蛍の恋愛を描きながらも、彼が自分のアイデンティティを確認していく内容になっています。

蛍の思考が文章の構成にも現れているのか、関西弁(京都弁?)が現れたり、将棋のお話が続いたり、語り部が変わったりと、少しクセのある文体になっています。

昨今の「誰にでもわかりやすく説明してくれる文体」ではないので、読み応えはありますが、少し時間をかけて読むのがいいかもしれません。

作品の魅力2:木下けい子先生、再び

1作目の『初恋をやりなおすにあたって』も木下けい子先生がイラストを担当していますが、今回のスピンオフも先生が担当ということで、木下ファンの自分としてはうれしいですし、木下先生のファンの方も読まれるのではないでしょうか。

この作品、私はなかなか蛍のイメージが浮かばなかったため、木下先生のイラストを目にすることで、物語がパァッと広がっていきました。

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まとめ

今回は、尾上与一先生の将棋BL『夜明けの星と詰まない初恋について』をご紹介しました。

棋士のお話なので将棋シーンが結構でてきますが、テクニカルな単語などはほとんどありません。ですが、将棋の様子などを少し知っていると、より楽しめると思います。

元ネタ『初恋をやりなおすにあたって』の面々も登場するので、いずれそちらも拝読しようと思っています。

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