こんにちは。
今回は、木原音瀬先生の『惑星』をご紹介します。
木原音瀬先生はボーイズラブ小説でデビューした先生ですが、初期のころからキャラ描写に独特な世界観やユニークな人間観察力があり、どの作品にも特別なものを感じる先生です。
木原先生の2024年新作『惑星』は、文芸図書ですが、今までの先生の作品とはまったくレベルの違う世界が広がっておりました。
木原先生作品の感想は、もう少しあとでゆっくり書こうと思っていましたが、読後の自分の中に蓄積された何かを吐き出すためにも、ご紹介しようと思います。
作品データ
惑星
木原音瀬 Narise Konohara
刊行年月:2024年09月30日
出版社:ホーム社(発売:集英社)
どんな作品?
木原音瀬先生の文芸作品。
ホーム社の文芸図書サイト『HB』での連載が単行本になりました。このような素晴らしい作品が連載時は無料掲載されていたなんて、びっくり。
自分を宇宙人と称するムラは、ホームレス状態の生活を送っていた。仕事を見つけては、「契約」し、住まいと食べ物を確保する。そんな日々を送っていた。そんなムラの日々を描いた作品です。
仕事仲間から騙されたり、若者との出会い、ジブンの星に帰ったはずの父親、飢餓……。自分を宇宙人だと思っている主人公のお話なのに、いく人かの読者は「共感」してしまうのではないでしょうか。主人公になのか、主人公の状況になのかーーー。
木原先生の作品は、2023年に読み始めてから、読み続けてきました。まだ半分も読んでいないかもしれませんが、少なくてもこの作品は、今まで読んだ先生の作品の中でも特に表現豊かな作品でした。
どの作品を読んでも、新しい気づき、面白さ、そして「人」そのものについて考えたくなるのが木原先生なんですが、今回も五感を刺激させられた挑発的な作品です。
BLというカテゴリー分けはしていませんが、登場人物はほぼ男性です。
この物語は、電子書籍でもリリースされております。
が、ぜひ紙本で読んでほしいです。
漫画家・平庫ワカさんによる素晴らしいイラストは、表紙カバー、そして本体にも施されております。本の装丁がとても素敵ですよ〜。
登場人物
ムラ:自称「宇宙人」。両親はおらず、ホームレス。日暮らしで仕事を見つけながら食いつなぐ。
カンさん:芸術家。偶然が重なり、ムラを家に招く。
あらすじ
自分を「宇宙人」と呼ぶムラは、ホームレス状態で、日暮らし。資格はないが、現場で仕事を見つけては「契約」し、同僚たちと狭いアパートに雑魚寝しながら食いつないでいた。
ある日、馴染みのある現場から遺体が発見された。同僚たちはなぜかそれをムラの父親だと言うのだが、ムラは、父親は「星」にいることを知っている。そんな時、偶然が重なり、以前知り合った芸術家の家へと転がり込むのだがーーー。
木原音瀬先生『惑星』のネタバレ!?感想・レビュー
木原先生の作品は、ここ1年で新旧の作品を半分くらい読み込みました。BL、文芸に限らず、最後の最後のページまで気を許すことができず、読後は必ず疲労感(悪い意味ではありませんが… w)に襲われます。
それは、あらゆるところから五感を刺激されるから。
今回の『惑星』は、ストーリーだけを読むと、重苦しく、ラストはやはり辛いのですが、それだけでは終わらないのが木原先生の作品です。
おはずかし話ではありますが、文学の良し悪しは、私にはわかりません。
でも、この『惑星』は、今まで自分が目を通した木原先生の作品の中でも最後の最後まで違和感なく読めた作品です。
もしかしたらそれは、ムラという一人称で書かれたお話だったからかもしれません。
作品の魅力1:ムラの視点
ムラという人物。
自分を「宇宙人」だと思っているこの人物。
彼の日々が、何ともカラフルなのです。
物語は全てムラの視点で、彼の言葉で描かれています。
彼の言葉なのだけど、それがなんとも豊かな表現力で、彼から見る日々は、辛いはずなのにカラフルに、人間的に見えるのです。
テキトーって言葉はいい。優しい。
シンプルな言葉ながらも、オノマトペや形容詞が頻繁に使われており、感覚で生きているムラ。五感が刺激されます。
ムラ本人は、言葉もあまり分からず、周りで起こっていることも半分くらいしかわかっていない。
同僚にお金を騙し取られたり、暴力を受けたりと、ひどい始末なのですが、対比してそこに人間らしささえ感じてしまうのが不思議です。
作品の魅力2:カンとの出会い
物語の転機に、ある若い芸術家との出会いがあります。
カンさん。
ムラはそう呼びます。
偶然が重なり、ムラはカンの作品を見ることがあり、さらには彼と時を過ごすことになります。二人の微妙な関係と、全く違う世界観の交差。
会話を通しても、見えている世界が一ミリたりとも一致することはないのだけど、それがまた、面白く、人間らしいです。
人は、予測のつかないもの。つまり自然。
一人一人がユニークで、同じものはひとつもない。まるで芸術と同じですね。
そのユニークな人物像が、この作品から読み取れ、さらにそれは、ムラというキャラに溢れている。
この二人のあれこれは特別なもので、感じ方も読者各々が違うかと思います。そもそも創作者である木原先生が込めた本質的なものを答え合わせすることもできない。
ムラの世界、カンさんの世界、そして読者の感じている世界観ーーー。
残念ながら、物語の本質を読み取れていない自分がいるだけなのですが、それでも、私なりに刺激を感じた物語でした。
作品の魅力3:時間空間
物語の中で、ある程度の時間は流れているのですが、はっきりとした描写がありません。
季節が大きく変化したり、クリスマスやお正月のイベントを幾度も経るという、具体的な時間概念を感じなかったのも、魅力の一つです。
幼少期の思い出、父親との思い出などが頻繁には出てくるのですが、ムラの人格上、何年が経過したなどという時間が登場しない。
また、現場で過ごした時間やカンさんとの時間も、数字ではなく感覚で時間が表現されています。空腹や睡魔に襲われるなど、感覚で表現される時間空間。
そもそも人間が時間の経過を感じるのは、数字ではなく「変化」ですね。
ムラは自分の変化、周りの変化などから、なんとなく時間を感じているのだな、と思います。
作品の魅力4:魅惑のフレーズたち
この物語には、小説の決まり事のようなものを感じませんでした。
なぜなら、ムラの言葉で綴られているから。
だからこそ、ところどころに現れている彼の感性に驚かされます。
物語も終わりに近づいてくると、なぜか涙が流れてきました。
それは、決して辛いから、切ないからではありません。
物語全体を通して、私は彼の日々を、どこかうらやましく感じたのかもしれない。
周りの人間から搾取されている彼を羨ましいとは思いません。
でも、ムラが感じる事柄、もの、人……そういった感性のようなものを自分にないのが、悔しいです。
ムラより恵まれた環境にいるはずの自分なのに、なぜ何も感じないのか。なぜ日々の生活から色や匂いを感じないのか……。
まったく目の前が見えていないを思い知らされ、悔しい感情と、ムラの感性をどこか羨む気持ち。
そんな感情から、自然と涙が流れてきたのかなと思います。
物語の中に、たくさんの素敵なフレーズがありました。
ムラのフレーズたち。
皆さんも、そんなお気に入りのフレーズ、考えさせられるフレーズなどを見つけることができると思います。
木原音瀬先生『惑星』を今すぐ読む方法
木原音瀬先生『惑星』を今すぐ読む方法は、電子書籍です。
コミックシーモアで読めるのは、電子派の方には朗報ですね。
この本に関しては、ぜひ紙本もチェックしてみてください。装丁が素敵で、1枚1枚紙の質を確かめながら、ムラを知ってほしいです。
木原音瀬先生『惑星』をもっと楽しむ方法
文芸図書なのですが、特典がありますよ〜
書き下ろしSSカード
コミコミスタジオさんで、書き下ろしSSカードつきのセットがリリースされています。
限定だとは思いますが、ちょっとでも長く世界観に浸りたい方は、こちらをオススメです。(もちろん私も特典つきを読みました。コミコミデビューしたよ)
サイン会プレゼント用の小冊子
2024年10月、『惑星』リリースに合わせて約5年ぶりとなるサイン会が開催されたようです。その際に、「ジブンの本」という小冊子がお土産品が配布されました。
紙本は入手が難しいですが、内容に関しては、ホーム社のWebに掲載されていますので、気になる方は、本編読後にご確認を〜。
まとめ
今回は、木原音瀬先生の『惑星』をご紹介しました。
たくさんの素晴らしい作家さんはいますが、木原先生の作品はどれも独特の世界観があり、私の脳裏に残ります。
ムラは男性で、生きづらい環境に育った人物ですが、どこか共感してしまうのは、性別に限らず、多くの読者が生きづらさを感じているからかも。
2023年に木原先生の作品を知って、ファンになり、やっと新刊をリアルタイムに購入して読むことができた幸せ感もあります。このような素晴らしい作品を書かれる大先生が、今でも同人誌も出してくれているという、とんでもない事実にも驚き!w
日本、面白い……
木原音瀬先生、お体にお気をつけて。これからも創作活動を楽しみにしています。
そして、このような素晴らしい創作エンタメを心から安心して楽しめる平和な日本がいつまでも続きますように……。
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